2025年8月16日54 ビュー View

【取材】「季節を味わい、食と向き合う」やさい料理家・二部桜子さんと愛犬アズキちゃんの暮らし

「命をいただくことの背景まで伝えたい」——そう語るのは、やさい料理家の二部桜子(にべ さくらこ)さん。

 

レシピ開発やフードスタイリング、料理教室や体験型の食事会など、多彩な活動に取り組む二部さんのそばには、愛犬・アズキちゃんの姿があります。

 

散歩やキャンプ、畑しごとなど、自然の中でアズキちゃんと一緒に過ごす時間は、二部さんにとって大切なインスピレーションの源に。

 

忙しい日々の中でも、ふと立ち止まり、季節の移ろいにそっと気づかせてくれる──

そんなアズキちゃんとの暮らしが、二部さんの“今”を静かに支えています。

トイプードル・アズキちゃんとの出会い

 

意外にも、「犬を迎えたい」という思いを最初に口にしたのは、それまで犬と暮らした経験のなかったご主人だったといいます。

 

「はじめは、保護犬を家族に迎えようかって考えていたんです。でも、譲渡会をいくつも回る中で、マンションの規約など現実的な問題もあって…。迎え入れの話は一度保留になったんです」

 

そんな中、ひょんなことから旅行に出かけるご友人のトイプードルを、数日間預かることに。

 

「一緒に過ごすうちに、主人の方が夢中になっちゃって、『この子は帰りたくないと思っているに違いない』なんて言い出して。でも、実際には友達が迎えに来た瞬間、その子は主人の方を見向きもせずに、帰っていってしまったんですよ(笑)。主人は愕然として、ペットロスみたいになっちゃって」

 

そんな出来事をきっかけに、ご主人が、ブリーダーさんを徹底的にリサーチ。

 

ほどなくして出会えたのが、アズキちゃんだったのだとか。

 

「7頭いる中で、4頭の女の子の中から選ばせてもらえて。主人はおてんばな“次女”がいいって言っていましたが、私は一番体が大きくておっとりした“長女”に惹かれて。この子がいいなって自然と思えたんです」

 

当時のアズキちゃんは、まだ生後2ヶ月の小さなパピー。

 

名前は、お迎えした帰りの車の中、ご主人と話しながら決めたといいます。

 

「ご近所に“あんずちゃん”という名前のワンちゃんがいて、“あ”から始まる名前っていいね、っていう話になって。『あんこ?』『いや、アズキがいいんじゃない?』って(笑)。当時の毛色はボルドー寄りの濃いレッドだったので、色のイメージにもぴったりでした」

 

「食」と「自然」をつなぐ料理スタジオ、『SHUNNO KITCHEN』

 

そんな二部桜子さんの活動は多岐に渡ります。

 

レシピ開発やフードスタイリング、ケータリングに加え、野菜をとことん美味しく調理することを学ぶ「やさいの教室」を開催。

 

また、千葉県の築190年の有形文化財「シラコノイエ」では、旬の食材を使った料理を学び、日本の伝統や暮らしの知恵に触れる古民家での食のリトリート体験*「季節を纏う暮らし」も手がけています。

 

*リトリート体験…忙しく過ごす日常生活から一時的に離れ、心身をリフレッシュさせるための体験のこと。

 
なかでも、「命をいただくこと」を実感できる食事会として始められたのが、体験型食事会「旬のTable」です。
 
たとえば、山をテーマにした食事会ではジビエ料理を味わったり、サステナブルな漁法で獲れた魚を楽しみながら海の環境問題を学んだりと、自然と食のつながりを五感で感じられる体験が用意されています。

 

「島国の日本に暮らしながら、山や海の現状を知らないのはもったいない。私たちが何気なく口にする食材には様々な背景がある。それを伝えるのも、料理家としての役割だと考えていて。食に関することで、『SHUNNO KITCHEN』としてやるべきだと思えば、何でも取り組んでいます」

 

食にまつわるさまざまな活動を通じて、自然や命との関わりを見つめるきっかけを届けています。

 

愛犬が教えてくれた、自然と向き合う時間

 

料理で使う素材は、すべて“おいしく味わい尽くす”。それが、二部さんのスタイル。

 

料理教室やケータリングで出た野菜の皮も、ベジブロス(野菜の皮などからとる出汁)として丁寧に旨みを引き出したあとは、残った出汁殻を畑に持ち寄り、堆肥にしています。

 

月に一度、野菜の仕入れ先や知り合いの農家さんの畑を訪ねながら、素材を無駄なく活かし、自然へと還す活動を続けているのだそう。

 

そんな“畑仕事”には、愛犬のアズキちゃんも毎回一緒に出かけるのだとか。

 

「畑に初めて連れて行った時に、農家さんが『アズキちゃん、穴掘ってなんか食べてる!』って教えてくれて。うちの子はふだん、おやつも選り好みするくらいなので、そんなはずはないと思ってたんですけど…見たら、本当に何かを掘って、ニヤッてしてて(笑)」。

 

普段とは違う“野生の顔”を見せるアズキちゃんに、二部さんも驚いたといいます。

 

「公園の土と違って、畑の土は農薬や薬剤を一切使っていない、栄養たっぷりな土だから、アズキもその違いが分かるのかもしれません。畑の土に触れると“ワイルドスイッチ”が入ったみたいに、本能が目覚めている感じがするんです。」

 

驚くのは、その“スイッチ”が味覚にまで影響すること。

 

普段の食事はお肉が中心で、野菜には見向きもしないアズキちゃんが、畑の野菜は美味しそうに食べるのだとか。

 

「農家さんの畑に転がっている野菜って、ちょっと発酵していたりして、香りも強いんですよね。それが逆に、アズキには“美味しい”って感じられるのかも。ちゃんと味の違いが分かってるんじゃないかなっていう気もしていて(笑)」

 

自然の中では、いつもと少し違うアズキちゃんの一面が見られる。

 

その姿に、二部さんも思わず新鮮な驚きを覚えるそうです。

 

自然がくれるヒント─インスピレーションは足元から

 

「都会に住んでいても、アズキと一緒に散歩をすれば、季節を肌で感じられる。藤が咲いてるな、もうすぐジャスミンが咲くなって。あずきがいるからこそ味わえる感覚です」

 

キャンプも、アズキちゃんとの暮らしがきっかけで、再び楽しむようになった趣味のひとつ。

 

「アズキは、自然の中に出ると“ワイルドアズキ”に変身するんです(笑)。川や湖が大好きで、私が止める間もなくジャブジャブ水の中に入っていく。そんな姿を見ると、こっちまで嬉しくなっちゃうんですよね」

 

自然の中に身を置く時間は、料理家としての活動にも豊かなインスピレーションを与えてくれるといいます。

 

たとえば、春先から初夏にかけて楽しめるウドの新芽を見つけては、『これ、フリットにしたら絶対美味しい!』と、その場で即興調理。

 

松の葉を水と砂糖に漬けて発酵させた「松の葉ソーダ」など、自然の中にあるものを食材として活かすアイデアが、次々と浮かんできます。

 

もちろん、こうした自然の恵みは、信頼する農家さんや山の管理をされている方に許可を得たうえでいただいているもの。

 

そんな丁寧な関係づくりも、二部さんは大事にしています。

 

「自然の中では、“これ、料理に活かせるかもしれないな”と思う出会いが、あちこちにあって。

宝探しをしているような感覚で、歩いているだけで、わくわくするんです」

 

お散歩やキャンプなど、アズキちゃんと一緒に過ごす時間のなかで得た気づきが、料理を通じて自然と向き合う二部さんの活動にも、静かに息づいているようです。

 

これまでも、これからも。自然と人がつながる取り組みを

 

料理教室だけでなく、マルシェやチャリティイベントなど、人と人、犬と人が自然と集まれる“場”を生み出してきた二部桜子さん。

 

そんな活動の中で、ウクライナ支援を目的に立ち上げたチャリティイベントが、地域のつながりと想いの輪を大きく広げるきっかけとなりました。

 

「ウクライナでの戦争が始まったとき、ニュースで動物たちが取り残されているのを見て、居ても立ってもいられなくなったんです。私が住んでいる地域は愛犬家同士のつながりが強くて、“何かできることをしたいよね”って仲間たちと集まって。気づけば2週間でマルシェを立ち上げていました」

 

以降、定期開催となったこのチャリティーイベントは、ことしで3年目を迎え、継続してウクライナの動物保護団体へ寄付が続けられています。

 

「やってみたい」と思った時には、まずは動いてみる。

 

その行動力の源には、お母さまの姿があるといいます。

 

「母はずっと専業主婦だったんのですが、40歳をすぎてから、料理や挿花など暮らしのことを仕事にしていった人だったんです。農薬を使わずに野菜を育てたり、天然酵母のパンを手づくりしたり——私たち家族にとっては“当たり前”だった暮らしが注目されるようになって。最終的には雑誌で連載を持ったり、本を出したりするようになりました。でも母自身は、ただ“やりたいことをやっていただけ”なんですよね。それを見て、『何かを始めるのに遅すぎることなんてないんだ』って思ったんです。

 

「SHUNNO KITCHEN」を立ち上げようと思った時も、チャリティーイベントも、“やってみたい”と思うことを口にしてみるだけで、何かが始まるかもしれない。そうやって、少しずつ形にしてきました」

 

 

そんな二部さんのそばには、いつも愛犬・アズキちゃんの存在が。

 

これまでも、そしてこれからも。

 

二部さんとアズキちゃんは、季節の移ろいを感じながら、これからも一緒に日々を歩んでいきます。

 

キャンプやお散歩で自然とふれあう時間は、心を整えるかけがえのないひととき。

 

自然のなかでの新たな発見や人とのつながり、暮らしの中で育まれた気づきが、二部さんのアイデアや活動に静かに息づき、これからも支えていくのでしょう。

 

 

photo:Hiroaki Otake

text:Chiharu Ota

location:SHUNNO KITCHEN

 

 

◆【近日開催】SHUNNO KITCHENのワークショップをチェック!

 

SHUNNO KITCHEN主催の「コンブチャ・ワークショップ」が、9月6日(土)に開催されます!

 

当日は、厳選茶葉とオーガニックシュガーを使って、約2Lのコンブチャを仕込む体験です。

 

腸内環境を整えたり、抗酸化作用が期待できる発酵ドリンクとして人気のコンブチャ。仕込みから育て方まで学ぶことができます。

 

その発酵のもとになるのが “スコビー” と呼ばれる菌の集合体。乳酸菌や酵母菌、酢酸菌などを含む発酵の宝庫で、本ワークショップではSHUNNO KITCHENで大切に育てられた元気なスコビーを使用します。

 

しっかり管理して育てれば増やすこともでき、半永久的にコンブチャ作りを楽しめるのも魅力です。

 

発酵の奥深さに触れながら、自分だけのコンブチャを仕込んでみませんか?

 

詳しくはこちら

 

日時

9月6日(土)〈二部制〉
・11:00 〜13:00 
・19:00 〜 21:00
場所 SHUNNO KITCHEN

東京都 台東区 蔵前

3-2-1-210

参加費

¥15,000

 

 

◆二部桜子

やさい料理家/SHUNNO KITCHEN主宰

 

建築家の父と挿花家の母のもと、東京都渋谷区に生まれる。

高校卒業後、ニューヨークに留学し、アメリカの大学を卒業。帰国後はアパレル業界でバイヤーやディレクターとして活躍。

その後、「SHUNNO KITCHEN」を立ち上げ、食を通じたクリエイティブな活動を展開。ファッションブランドの展示会や雑誌イベントなどのケータリングを手がけるほか、地球環境に配慮した「おうちケータリング」のECサービスや、野菜に特化した料理教室「やさいの教室」などを主宰し、サステナブルな食のあり方を提案している。

 

◉SHUNNO KITCHEN HP

https://shunnokitchen.com/ 

◉SHUNNO KITCHEN  instagram

 

 

こちらの記事もチェックしてみてくださいね。

【取材】石野卓球ートイプードル2頭を溺愛する、裏面。

いいなと思ったらシェア

おすすめ記事